ろく

19の夏。じぶんちの最寄り駅まであとひと駅、というところで終電をなくしたバイトがえり、ちかいようでとおい道のりをとぼとぼとあるいていたら、ちゃぱつのいけめんがあらわれて「こんばんは」と声をかけてきた。その「こんばんは」のかんじがすごくよかったので、私は足をとめてしまった。ちゃぱつでいけめんで、真夜中の道で女に声をかけているのに、ぜんぜん軽いかんじがしないのがふしぎだった。


ひまならすこしお話しようよ、というのでふたりで公園にいった。ベンチにすわっていろんなことを話した。恋愛のことバイトのこと、ことしの夏はどこにいったとか、恋人ができたらどこにいきたいかとか、今夜は星がきれーだとか、私もかれもべらべらとしゃべった。しらないひと同士のほうが気がねなく話せるな、と私はおもった。


かれは若くみえる26さいで、定職にはつかずいろんなアルバイトを転々としているらしかった。「びんぼうなんだよ〜」とあっけらかんとわらった。わらうときの目がやさしくて、「いいな」とおもった。こんなひとが友だちにいたらすごくたのしいだろうなー、と。


でも、おおきなベンチにねころがってしゃべっているとき、かれは私におおいかぶさってきた。私はかれの肩ごしに星をみながら、「あー、そうだよなー」とかなしくなった。夜道で声をかけられてついていくってことは「そういうこと」なんだから、かなしくなるなんておかしいんだけど、でもかれは「そういうこと」じゃないかもしれないって、おもってしまってたから。


はだけられた服のしたを蚊にさされて泣きそうだった。かれはやさしくしてくれたし、終わったあとも家のちかくまでおくってくれたけど、それでもかなしいのにかわりはなかった。


それ以来、かれに会うことはなかった。電話がきてもしらんぷりをした。


ほんとうは友だちに、なりたかったんだけどなあ。