インク

 なん人と愛のないセックスをしても、なん回まるめたティッシュみたいに、ひと晩でぽんっと投げ出されても、なん度ひどいだまされ方をしたって、ぜったいに汚れてなんかやるもんかという心もちでずっといた。ずたずたになって、泥みたいな涙を流しても、また次に恋するときには何度でも何度でも、まっさらな気持ちに戻って、まるで中学生の時の初恋みたいに眼をきらきらさせてひとを好きになれると思ってた。なん百回だって男の子を信じることができるって。失敗するたびにページを繰って、空白の項をひらいては恋をした。
 だけど、最近どうやらそれにも限界がきたみたい。めくったまっしろなはずのページには、インクが点々と滲んでた。
 どうも斜にかまえてしまう。甘い言葉も受け取れない。顔がひきつる。「この人だってどうせ」という声が心の中でつねにしている。「しんじるな」って。
 こうなると恋愛は急激につまらなくなる。信じようとして信じられないのはいいけど、最初から信じないって決め込んでしまうともうそれは、恋愛とすらいえないものになり下がってしまう気がする。
 くだらないガードなんてやめようぜー。胸の前で腕を組んで、自分が傷つかないように守りながら他人を愛することなんてできるわけない。あたしらしく、腕をめーいっぱい広げて相手にまっすぐ向かわなくちゃ、だめだよなー。