フラジール

ひどい音のしたほうを見ると、割れた鏡が視界に入ってきた。荒れた息がしんとした部屋に吸い込まれていく。彼が息を切らしながら、こわい顔をしてたたずんでいた。見たこともないような昏いいろの眼が、こちらをぎろりとにらんでいる。
ぎざぎざに割れて尖った鏡の表面をみて、これはこのひとの心そのものなんだと思った。触れようとすれば自分の手がジャキジャキに傷ついてしまいそう。でもあたしは何度でもそうする。そうしたい。
自分の中にワレモノを抱えているのは、なにもあなただけじゃない・あたしだっておなじ・みんなおなじだ。あたしはあなたなんかちっとも恐くない。