メルティング

午前5時、バイト先のミーティング(という名の飲み会)でさんざんな気持ちになって帰ってきたあたしを、彼は玄関先で抱きしめて、「風呂いれてあるから入りなよ。」と言った。あたしがびくびくしながら「におう?」ときくと、「よどんだ空気のにおいがする。洗い流しちゃいなよ。」とやさしく笑った。

彼が熱めにいれてくれた湯につかりながら、よどんだ空気について考えた。あの小さな空間の中、男たちは大きな声で自分たちの暗い部分をぶつけあっていた。あたしは何も言えないまま泣いた。たばこの煙とか、酒のにおいとかじゃなく、あの部屋に充満していたものに耐えられなくて泣いた。なぜ泣くのかわからないと、叫んでいた男のひとりが言った。
あんなのはもうごめんだ。
そう思ったらまた泣けてきた。
浴槽の中で体育座りのからだがじんじんと、あたためられていくとともに、あたしが身にまとっていたよどんだ空気が湯の中に溶けていった。あたしは彼に感謝した。