それでね
「きみのナイフは手に負えないな」っていわれたい。いってほしい人がいる。
けどたぶんあの人がいうならば、わたしの刺し傷からさらさら血を流してくれながら、やれやれ、とばかりに笑っていうのだろう。ひょっとしたら、あたまも撫でてくれながら。余裕だな。くやしいな。
わたしがばかみたいにばくばくしながらなんやらはずかしい言葉で好意をつたえると、いつもあの人がうれしそうに(うれしそうにしてくれながら、かな?)いう、「刺さりました。」はきっと、ほんとうなんだ。でもそうじゃなくて、あしたには完治してしまうそんな傷じゃなくて、もっと致命的な傷を負ってほしいんだ。重傷すぎて、わたしのよこで立ちあがれなくなるくらい。ずっと。
そんなことはまずないだろう。あの人に根を張ったすごく冷淡な一部分には、わたしのナイフは刺さらない。でもそこを突き崩すことをのぞんでしまうから、せっせと砥石をつかうよ、しゃーこ、しゃーこ。