なにかが動く、日曜日。雨がやんだ、月曜日。

 日曜日の早朝、バイトを終えると店から飛び出して、自転車に飛び乗った。雨の中を全速力でこいで自宅に向かった。降っていたのは霧のようないやらしい雨で、着いたときには髪も顔もワンピースもじっとりと濡れてしまっていた。部屋の前で気を落ち着けてから、静かにドアを開けると、玄関に見覚えのあるサンダルが。本当に彼が来ている。うわあ。しばし止まる思考。荷物を置いて、シャワーを浴びようとカーディガンを脱いでいると、ロフトから彼が顔をだした。「おー、おかえりー」。気の抜けるような声。彼のおかえりはいつぶりだろう。「ただいま。遅くなってごめんね」。どういう顔をしていいのかわからなくて、無表情にそうこたえた。


 シャワーを浴びて、ロフトに上がると、彼のにおい。大好きなにおい。切ない気持ちになる。腕まくらをしてもらいながら、いつものようにとりとめのない話をした。いつものように、肝心なことはなにひとつ訊けないまま、気がついたらセックスをしていた。でも、頭の中にはいろんな言葉がうずまいていて、快感に集中できない。「待って」と彼を止めて、蝉よろしくその体にしがみついてしばらく泣いた。ごめん、ごめんと何度も泣きながら謝った。彼は謝らなくていいよ、と優しく頭を撫でてくれた。少し落ちついてから、抱きあったまま話をした。「今日はどうして来てくれたの?」「だってあんなメールしてくるから。」数日前あたしは、食事にいく約束を忘れて連絡をくれない彼に、“何とも思ってないならもうはっきりそう言ってよ”というような内容のメールを送っていた。送ったメールの文面を思い出して赤面しながら、あたしはすねた。「だって冷たいんだもん。」「冷たくないよ。」「冷たいよう。」笑いあう。ぎゅっと抱きしめる。沈黙。「あたしは…、」と、勇気をだして切り出してみた。「あたしはまーさのこと、けっこう本気で好きなんだけど、まーさは迷惑なのかな…。」ずっと言いたかったこと、訊きたかったこと。うなだれて、こたえを待った。「迷惑なんかじゃないよ。」彼は言った。「ただ、俺の気持ちが迷子だから…。」迷子、のニュアンスがすごくわかった。「そっか…。」言葉をかみしめる。「そっか。うん。…………嫌われてなくてよかったよ。」「嫌いなんかじゃないよ。」「うん。」そのあとはじゃれあっているうちに、いつの間にかふたりとも眠りについていた。いやな夢を見ないのは久しぶりだった。


 昼過ぎに目が覚めて、かわりばんこにシャワーを浴びたり、Gyaoでアニメを観ながらだらだらと準備をして、近所の定食屋にゴハンを食べに行った。そこの店はうまいうまいと思っていたけど、彼と行くからうまいんだなと気づいた。彼と食べる680円のC定食にくらべたら、どんなフルコースも味気ないんだ。


 ランチを終えると部屋でもうひと眠りした。すごくいい夢をみた。日が暮れるころに起きて、ねみーねみー言いながら、あたしは友達との飲みの会場に、彼は自宅にそれぞれ向かった。途中の駅でばいばい、と別れるときはもうさみしくなんかなくて、満たされていた。だけどどうせ3日もすれば会いたくて会いたくて仕方なくなるんだろうとわかった。ぞっこんだ。ZOKKON☆。こんなふうに恋をするのは怖いことだ。感情に振り回されて、飲み込まれて。でも、こうでないと楽しくもない。自分でコントロールできる恋愛感情なんて、こやしにもならないよ!


 地元まで約1時間、電車に揺られ、実家ちかくの居酒屋へ。高校時代の同級生の女子5人と飲んだ。会うのはみんな1年以上ぶり。それくらいのブランクがあるとみんなの状況もまったく変わってしまっているので、近況報告だけでも話は尽きることがない(おもに恋愛関係)。なんていうか、空間がまるごとピンクだった。ひらひらの服を着て、ひたすら恋バナをする女子たち。どうしてそんなに可愛いんだ。本気でしりごみするあたし。そうび:だっせえTシャツ、あなのあいたジーンズ、よごれたスニーカー。どうしようもないので、はじっこでマグロをかじり、恋バナに頷き続けるだけのマシーンと化した。


 とことんあたしは女子を怖がっているなあと思った。克服したいところ。


 飲み終わって早朝、実家に忍び込んで泊めてもらった。久しぶりに会った飼い猫が非常にあいくるしい。こんなにふあふあのもふもふでほこほこだったか? かわいすぎて泣きそうだった。どうしてこんなにかわいいのかよ…!(孫)


 明けて月曜日、のそりと起きてリビングに行くと、仕事が休みだという父がいた。「おなかすいてる?」とサンマーメンを作ってくれた。うまし。食後にコーヒーをいれてくれたので、ふたりで飲みながらいろんなことを話した。

・セイヨウミツバチとニホンミツバチの差異
・エコ戦略の抱える矛盾
・島国における生態系の乱れ
北海道民のゴキブリへの想い

などがおもな議題になった。なにも産み出さないけど、たのしーんだ(^ω^)


 話もしつくしたので、ひさびさの脚を伸ばせるお風呂を満喫させてもらい、東京に帰った。


 電車を降りると、雨がやんでいた。