性別がふたつだけなんてこともないだろうが

 自分の女性性みたいなものが大っ嫌い。長い髪で、ひらひらフリルのスカートはいて、長くのばした睫毛のすきまから上目遣い、鼻にかかった声で「ぁはっ☆」と笑う、その口もとはピンクのグロスでぷっくり、“今年の新色、キスしてしまいたくなる天使のくちびる”?くそくらえなのよ、まとわりつく長い髪も、フリルもレースも、しめつけるブラジャーも、フルーティーな香水も、マニキュアも、この好きでもないピンクって色も、それを身にまとってる自分も、毎月律儀にやってくる生理も。吐き気がする。あたしの身のまわりで女の子たちはほんとうにキラキラしていてきれいで可愛くて、柔らかくてそれでいて強さを秘めていて、素敵だなあって思う。だから決しておんな嫌いなわけではない。嫌いなのは自分の女性性。それを受け入れられないだけ。自分のなかにおんながいると思うと、怪物でも抱えている気分になる。気持ち悪い。あたしが「おんな」であること。

 コンサートホールに行くとか、こじゃれたバーで飲むとかじゃない限り、なるたけ男の子みたいな格好をして過ごすようにしている。髪をひっつめて、Tシャツにぶかぶかのジーンズで、財布も定期もポッケに入れて、履き古したスニーカーでだっだっだって、ウォレットチェーンをじゃらじゃらいわせながらかけずりまわってるときがいちばんいいの、ちゃんと息ができる。あたしは男の子に生まれればよかったのに。

 なんて、男の子がよかったとかおんなでいるの嫌だとか甘ったれたこと吐いてみても、どこまでもあたしはおんなで、今日もぐちぐち言いながらブラジャーをつけて谷間をつくるし、化粧もばっちりする。そしてちゃっかりレディースデー料金で映画を観、食事を男性におごってもらう。鼻にかかった声を出し、脚をひらいておんなしか味わえない快楽を堪能する。おんなの部分を憎むようなことを言いながら、自分がおんなであることに甘えている。甘えきっている。吐き気がする。

 結局はどこで折りあいをつけるかなんだと思う。おんなの自分とそうでない自分。