ソーキュート

 6つ年上のシロちゃんは今は奥さんがいるけど当時は彼女がいるだけだったからわたしのことも気にいっていて車によく乗せてくれていやらしいことを楽しんだ。「彼女がいなかったらお前と付き合っているとおもうよ」とシロちゃんは言ったがわたしは大すきな彼氏がいたしシロちゃんに彼女がいなくてもシロちゃんとは付き合っていないよきっとと思った。おセンチになっている年上男を心のなかで鼻で笑ったし本当に鼻で笑った。咳ばらいして「そっか」とにっこりした。にっこりしちゃうくらいかわいいと思った。浅黒く焼けてがたいのよい大人の男がそんなことを言うのね。

 考えてみればシロちゃん以前にも以降にももしもを語る男の子は常にいた。「結婚する前に会っていたら」「出会いがこんなじゃなかったら」…。

 もしもには夢があるしそれはとってもかわいい夢ですね。わたしもたくさんの夢をみる。あの子と付き合えていたら・あのひとと付き合いつづけていたら〜〜。もしもはふわふわしていて切なくもある夢を見させてくれるしお茶うけやまどろみに最高だけどその力しかない。今とこれからの自分たちをどうこうしたいどうこうしようって心がないのだもん。「もしも」想った時点でその相手とのこれからは諦めてるしよくて現状維持だよね。よって口に出すことじゃないと思うのかわいいけど。とびきりキュートだけど☆☆☆☆

 当時の大すきな彼氏ケイははじめて付き合ったのがわたしでいろいろなことがはじめてだったのである日ふたりで歩いているとき「他の女ともやってみたいなとか思うんだよね」と言った。のちのち思いだして傷つくことになるその台詞はでも第一印象は「すごいよくわかる」で。そうだよなーそうなるよなーという感じ。信じられないけどわたしはその場でもそれから先も怒ったりさわいだりしなかったケイの暴言について。そうだよねそうなるよね、うんわかるよ、でもあきらめてもらうしかないのだった。そのときはすごくわかるよとしか言えなかったしなんだかケイがかわいそうにさえ思えた。今のわたしなら加えてこう言うことができるかも。それでもわたしと出会ったのはだれとも付き合うまえのケイだったじゃん。ケイの気が済むなら他の女とやってみればいい(もちろんわたしは嫌だけどやりたければ黙ってやればいい)。でもケイはわたしのことが好きだし、彼女が好きなのに他の女とやるとかできるケイじゃないじゃん。だからわかるしかわいそうだと思うけどあきらめてもらうしかないよ。わたしたちはわたしたちが出会ったようにしか出会えなかったんだよ。

 ケイもかわいいね。

 わたしたちはわたしたちが出会ったようにしか出会えない。

 かえで(今の彼氏)と出会い好きになったときわたしはシロちゃんが使ったのと逆のもしもに震えた。もしも学校ひとつ、住む町ひとつバイト先ひとつちがうところを選んでいたらかえでには会えていなかったなんて震える怖い。でもわたしはかえでを見つけた。やはりこうなるしかなかったのだと思う。

 後悔も反省もない世界にわたしは生きている。生まれて生きてきて、今のわたしになる確率は;もはや100パーセント。これでいいとか悪いとかじゃなくこうなるしかなかったからもう、もしもを想うならすべてが0のこれからのことを。