スプラウト

 週に4〜6日、ひとりで動けるたぐいの仕事をして暮らしている。今のペースに落ちついたのはここ1年くらい。最初は居酒屋のアルバイトとがっつりかけもちなんかをしていたのだけど、どうにもノロマなわたしには飲食業がいよいよしんどくなってやめた。高校・大学時代からほぼ途切れることなく飲食のバイトばかり続けてきたわりに、向いていない向いていないとは感じつづけていた。それでもそういうバイトばかりを選んでいたのはお酒や食べ物のある場が大好きでそこに身を置きたかったからなのだけど、もういい、プツン、とやめたあとの開放感といったらすごくてああ、ほんとうに向いていなかったんだな。と思った。居酒屋やバーにはもう飲みにいくだけでいいや。
 それで今はひとりで気ままに仕事をして自分を食べさせるくらい、よりもう少しだけのよゆうが作れて、いうことないなあ。という気分でおおむね暮らしている。
 今年は結婚して引っ越して部屋も広くなった。休日の今日はファンヒーターをたいたあたたかいダイニングでアップルティーを飲む休憩をふんだんにはさみながら夫の親類から送られた箱いっぱいの野菜を丸1日かけてのんびりと調理する。テーブルには数本のお花。わたしはティーポットに2回目のお湯を注ぎ入れながら生活はどんどん良くなるのだと思う。これからは豊かになる一方だ。
 わたしの生活がいままでで一番みじめだったのは狭いアパートの部屋で家族3人いがみ合いながら暮らしていたときで、わたしはまだ子どもではたらくこともできなかった。自分の意思で暮らしを良くしていく力がなかった。今はまるでちがう。結婚してともに暮らす人は好きな人で、わたしも彼もそれなりに懸命にはたらいているのだから、すべては良くなっていくに決まっている。傲慢にもわたしは言う、豊かになっていかなければおかしいね。